矯正治療期間が大幅に短縮できる?<JET system>
今日は前回の予告通り、正月休みに読んだ専門書の中から矯正治療期間を大幅に短縮することを提唱する<JET system>という、ちょいとあやしい本を紹介します。
なぜあやしいかというと、今までも矯正治療を大幅に短縮すると謳った治療法や治療装置はたくさんあるのですが、治療期間大幅短縮の科学的根拠が確かなのはコルチコトミー法という手術を併用する方法だけなのです。その他、パッシブセルフライゲーションブラケットなど多少の治療期間短縮効果が認められるものはいくつかありますが、その何倍もほとんど科学的根拠のない製品、治療法が氾濫しているのが実情なのです。
私はこの<JET system>について何年も前にその存在を知っていたのですが、上記のような理由で無視していました。しかし、半年程前に私が技術的にも人間的にも信頼している鹿児島大学の友成先生に「JET systemってあやしそうにみえるけど、結構まともだったよ」と聞いたため今回読んでみました。
さて、前ふりが長くなりましたがそろそろ本題に入りましょう。結論からお話しすると、多少誇大広告な気もしますが、十分まともな本でした。なぜそう感じたかというと、この本、奇想天外なトンデモ論も展開しているわけではなく、<既存の科学的根拠のあるシステムを組み合わせて、やれることを全てやって結果的に全部足したら大幅に治療期間の短縮になります>というお話だったのです。この本の主張は大まかにいうと以下の4つです。
1 パッシブセルフライゲーションブラケットを使用して治療期間の短縮を期待する。
これは従来からレべリング(治療初期の歯の凸凹を治す治療ステージ)のスピードが通常のブラケットよりも多少早いことがわかっています。
2 抜歯後の代謝活性を活用するために、抜歯後すぐに犬歯の後方移動を行う。
抜歯後に代謝活性が上がり歯の移動が速くなることは専門医のなかでは常識で、コルチコトミーはこれを応用した治療法です。あやしくないけど全く目新しくない。
3 治療初期から犬歯の後方移動を行うと歯が倒れてしまうが、この弱点を消すために50gのコイルスプリング(通常の半分以下の力です)とハイフックを使用する。
抜歯後すぐに犬歯を後方移動した方が早く動くことは矯正専門医の共通認識なのです。なぜ今までやられていなかったかというと、治療初期は凸凹が大きく弱いワイヤーしか使えないため、歯が倒れてしまい却って治療期間が大幅に伸びてしまうからなのです。しかし著者のこの主張は理にかなっており、私自身も最近使用している治療法です。
4 治療初期から顎間ゴムを使用することでさらにスピードをあげる。この際副作用として歯の挺出が考えられるが、50gという弱い力の顎間ゴム(通常の半分の力です)を使用すれば、咬合力で歯の挺出を防ぐことができる。
この方法、唯一賛同できません。確かに著者の主張ももっともなのですが、以下の2つの理由から私は自分の治療には今のところ応用するつもりがありません。1)日本人は骨格的にドリコタイプ(咬合力が弱い骨格タイプ)が多く、顎間ゴムによる歯の挺出力をキャンセルできない可能性がある。2)もし歯が挺出してしまうと、治療計画全体に大きな影響を与え、治療自体の精度に問題が生じる可能性が高い。医療である限り避けうるリスクはなるべく避けるべきと考える。
以上の4点のうち、2番目、3番目については私自身も現在すでに使用しているシステムです。1番目のパッシブセルフライゲーションブラケットについても舌側矯正(裏側矯正)では使用しているのですが、通常の表側からの治療では使用していません。パッシブセルフライゲーションブラケットは審美性が悪いブラケットなのです。当院で使用しているセラミックブラケットは特に審美性に優れた最高級ブラケット(3M クリアティアドバンスドプラス)なので余計に導入をためらっているのですが、今後要望があれば検討いたします。
最後に、この<JET system>には大きな欠点があると著者が認めています。この治療法は50gという通常の矯正治療の半分の力で歯を動かすので舌癖がある人には不可能なのです(歯を後ろに動かす矯正力よりも舌が歯を前に押す力の方が強いため)。ですから治療前に舌癖を治す必要があります。舌癖に関しては通常の矯正治療でも治療期間延長や後戻りの原因になりますので、当院では舌癖の認められる患者さん全員にMFT(口腔筋機能療法)を指導しております。当院HPでも少しふれておりますが、今後のブログにもう少し詳しいことを書ければと思っています。
今日の話は内容が専門的すぎてわかりにくかったと思います。ちょっとわからないところがあった、もう少しくわしく聞きたいという方は是非メールで質問してください。
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