矯正治療で歯を削る?ストリッピングのメリットとデメリット

女性の口元治療法

矯正治療で抜歯するという話はよく聞くけど歯を削るってあまり聞いたことがありませんよね?

だけど実は結構あるんです。それで治療方針の中で歯を削るという説明を受けて不安になる方が多いのでが、歯を削ると言っても、虫歯を治療する時のようにガツガツ削るわけではありません。

矯正歯科で歯を削ることをストリッピングとかIPR(interproximal enamel reduction)と言います。これは、歯と歯の間、つまり歯の横側を少しだけ削るもので、臨床的に安全性が確認されている安全な方法ですので安心して下さい。

今回は矯正治療で歯を削ることでどんなメリットがあるのか?どうやって歯を削るのか?歯を削るって痛くないのか?歯を削ることでデメリットはないのか?について説明します。

なぜ歯を削る必要があるのか?メリットは?

矯正治療で歯を削る理由は主に4つありますので、それぞれについて解説します。

デコボコを解消するため

歯が顎に入りきらずにデコボコの歯並び、矯正治療を受ける患者さんが一番治したいとこですよね?
このデコボコを治すためにはどうにかして歯を並べる隙間を作る必要があります。
そして、その隙間を作る方法は5つあります。

抜歯して隙間をつくる
歯列を横に拡げる(拡大)
奥歯を後ろに移動して歯列を長くする
前歯を前に移動して歯列を長くする
ストリッピング、つまり歯を削る

この5つ方法のどれか、またはいくつかを組み合わせて隙間をつくるのです。
ストリッピング
そのなかで今回のストリッピングはイラストのように歯の横側をそれぞれ片面0.25mm以内、両面で合計1本当たり0.5mm以内で削ることで隙間を作っていく方法です。

歯と歯の間を削っていくので奥歯まで全部行うと理論上は13か所で6.5mm隙間を作れる計算になります。1本あたりは最大0.5mmしか隙間をつくれませんが、塵も積もれば山となる方式で前歯1本程度の隙間を作れることになります。

上下の歯の大きさのアンバランスを解消するため

正常な咬み合わせは上下の歯列が理想的に咬み合う必要がありますが、そのためには上下の前歯6本の大きさのバランスが取れている必要があります。

実際には上顎前歯6本の横幅の合計と下顎前歯6本の横幅の合計の比率(トゥースサイズレイシオ)を計算するのですが、このバランスが大きく崩れていると、どのように並べても上下の歯が理想的に咬みあうことはできません。

例えば上顎前歯が非常に大きく、下顎前歯が小さい場合はそのままの歯の大きさだと理想的に咬みあわないので歯のサイズを調整する必要があります。この場合は上の歯の隣接面(歯と歯の間)のエナメル質を少しづつ削って(ストリッピング)大きさを調整するのです。勿論安全に削れる量は1本あたり0.5mm以内ですので、バランスが大きく崩れている場合はストリッピングだけで解決できないこともあります。

ブラックトライアングルを改善するため

ブラックトライアングルという言葉は聞いたことありますか?歯肉が痩せてくると歯と歯肉の間に三角形の黒い隙間ができてきます、これをブラックトライアングルといいます。

特に前歯は笑った時に黒く見えて見栄えが悪いので審美上の問題になります。

イラストを見て下さい。前歯は逆三角形の形をしているのでイラストのように隣接面(歯と歯の間)をストリッピングすることで三角形が小さくなるのがわかりますか?

このように、ストリッピングをすることでブラックトライアングルを目立たないようにすることが可能です。

歯列の安定性を向上するため

歯と歯はイラストのように基本的に点接触でお互いを支えています。ストリッピングをすることで点接触が面接触になり、支え合う面積が増えることで綺麗に並べた歯列が崩れにくくなる効果もあります。

歯を削っても痛くないの?歯を削る3つの方法

歯を削るというとどうしても痛いイメージがあると思います。通常、歯を削るときは虫歯の治療ですよね?虫歯の治療で歯を削る時は多くの場合、エナメル質の内側にある象牙質というところまで虫歯が進行しています。

象牙質の内側には歯髄(歯の神経)があるので、象牙質まで削ると神経に響いてどうしても痛みを感じてしまします。

それに対してストリッピングは歯の隣接面(歯と歯の間)を削っていくわけですが、エナメル質の表層だけしか削りませんので、象牙質の近くまで削ることはなく、痛みは感じません。

削り方が3種類ありますが、どの方法でもエナメル質しか削らないので痛くありません。麻酔をする必要がありません。

やすりで削る

歯と歯の間にやすりを入れて削っていく方法です。やすりをエンジンにつけて削る方法と手動で削る方法があります。

どちらも同じことをするわけですが、歯科恐怖症の患者さんはエンジンの音を聞いただけで怖くなる方もいますので私は基本的には手動で行います。やすりはそれぞれ厚みが決まっていて正確に削る量を調整することが可能です。

バーで削る

虫歯の治療の時と同じタービンにバーをつけて削るのですが、虫歯の治療で使うバーよりも非常に細いバーで削ります。このバーも太さが色々あって、削る量を正確に調節できるようになっています。痛くはないのですが、タービンの音だけでも怖いという方にはお勧めしません。

ディスクで削る

タービンに丸い円盤みたいなディスクをつけて歯と歯の間を削る方法です。この方法もディスクの厚みが色々あって削る量を調節できるようになっています。やはりタービンの音が苦手な方にはお勧めしません。

歯を削ることでデメリットはないのか?

歯を削ることで色々な問題を解決できるというメリットがあることはわかった。
でもメリットばかりではなく、デメリットもあるはず。
歯を削ったりしたら虫歯や歯周病のリスクが高くなりそうな気がしますよね?

様々な論文で一定の範囲内であればエナメル質を削っても虫歯や歯周病のリスクが増加しないことがわかっていますので安心して下さい。特に虫歯のリスクを心配される方が多いので虫歯のリスクについては詳しく説明します。

エナメル質はどこまで安全に削れるのか?

ストリッピングは1944年にBallardが初めに行ったと言われています。

以来、どこまでが安全に削れるか様々な論文が出ています。

エナメル質の半分までは安全に削れると言われていますが、研究者によって意見は様々です。Zachrissonは下顎前歯で片側0.3mm、一本当たり0.6mmストリッピングした症例の10年以上の長期経過を観察して虫歯のリスクは増えなかったと報告しています。

また、ChudasamaとSheridanはエナメル質が厚い側方歯では片側0.5mm、一本当たり1mmまでは安全に削ることが可能だと主張しています。このように様々な意見があり、どこまで安全に削れるのかは決まっていないのが実情です。

なぜ一本あたり0.5mmまでになっているの?

日本では片側0.25mm、一本当たり0.5mmまでが安全だと一般的に言われており、論文よりも少ないですよね?なぜでしょうか?

今まで紹介した論文は全て海外の論文で日本人を対象にしたものではありません。日本人のエナメル質は白人と比べて厚みが薄く、佐藤らの研究によると一番薄い下顎前歯では0.6mm程度です。勿論個人差があり、0.5mm程度しか厚みがない人もいるようです。そうするとエナメル質の厚みの半分は、最もエナメル質の厚みが薄い人では0.25mm程度ということになるのではないかと思います。

参考文献

ストリッピングは虫歯や歯周病のリスクを高めることがないか皆さんとても心配されることなので、正確を期すため以下の文献を参照させて頂きました。

Tuverson DL. Anterior interocclusal relations. PartIandII. Am J Orthod 1980;78:361-93.

Zachrisson BU. Dental health assessed more than 10 years after interproximal enamel reduction of mandibular anterior teeth. Am J Dentofacial Orthop.2007 Feb;131(2):162-9.

Lapenaite E, Lopatiene K. Interproximal enamel reduction as a part of orthodontic treatment. Stomatologija. 2014;16(1):19-24. Review.

Chudasama D, Sheridan JJ. Guidelines for contemporary air-rotor stripping. J Clin Orthod. 2007 Jun;41(6):315-20.

Jarjoura K, Gagnon G, Nieberg L. Caries risk after interproximal enamel reduction. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2006 Jul;130(1):26-30.

佐藤 亨, 梅原 一浩, 中澤 章, 腰原 好:日本人前歯におけるエナメルの厚さに関する研究、接着歯学、15:262-272、1997.

タイトルとURLをコピーしました