矯正治療後の後戻りの原因と対処法(後戻りの原因は様々)

カウンセリング風景大人の矯正

長崎のすずき矯正歯科 副院長の鈴木智貴です。

今回テーマは、「矯正治療後の後戻りの原因と対処法」です。

矯正治療を経験した知り合いから後戻りした、デコボコが再発した、そんな話を聞いたことありませんか?

せっかく治療しても再発するなら意味ないんじゃないの?そう思う方も多いでしょう。確かに僅かな後戻りはどうしようもないこともあります。しかし、通常の後戻りとは、僅かな隙間ができたり、下顎の前歯に僅かなデコボコができたり、ちょっと歯が捻じれてしまうという程度の後戻りであって、治療前に完全に戻ってしまうとか、治療したことが意味がないような後戻りではありません。皆さんが心配されているような大きな後戻りは防止することができるのです。そこで、後戻りの原因と対処法(予防法)について解説します。

よくある下顎前歯の後戻り

リテーナーを使用していなかった

最も多い原因です。以前患者さんから友人が治療終了後半年でガタガタになったのだが、大丈夫ですか?という質問を受けたことがあります。

僅かな後戻りでしたらわかるのですが、その患者さんのお話しだとガタガタで一目でわかるくらいの後戻りだということでした。不審な話でしたので詳しく聞いたところ、そもそもリテーナーを作っていなかったそうです。

担当医から矯正治療終了後にリテーナーは別料金ですがどうしますか?と聞かれたので作製してもらわなかったとのことでした。矯正歯科医からすると信じられない話です。リテーナーを使用しなければ必ず後戻りします。リテーナーが必要な理由と使用期間の目安などについて解説します。

リテーナーはなぜ必要なのか?

リテーナーの必要性を理解するために、初めに歯が動く仕組みを少し知っておく必要があります。

矯正治療中に歯が少しグラグラ揺れる感じがするのを知っていましたか?敏感な方は歯が抜けてしまうのではないかと心配してしまう方もいらっしゃいます。そもそも歯は骨と直接くっついているわけではなく、骨と歯根(歯の根っ子)をつなぐ歯根膜という線維性の組織でつながっています。歯が動く時は周囲の骨が吸収したり、つくられたりしながら骨の上を歯根膜で引っ張られた歯が運ばれていると考えてもらうとわかりやすいと思います。

歯が動いている時はこの歯根膜が伸びていて、歯と周囲の歯槽骨との隙間が拡がるために歯がグラグラした感じがするのです。矯正治療が終了した時はまだこの状態が続いていますので、歯がグラグラして動きやすい状態です。

さらに歯肉の中には歯の周りや歯と歯の間には歯周線維という治療中に伸びたり縮んだりするゴムのような繊維があります。歯肉線維はゴムのように戻ろうとしますので、矯正装置を外してリテーナーを使用しないと歯を治療前の状態に戻そうとしてしまうのです。

建てられたばかりでまだコンクリートが固まっていない建物の柱がゴムでゴムのようなロープで引っ張られているのをイメージして下さい。、矯正装置が外れたばかりの歯列はこんな状態なのです。

コンクリートが固まるまではすぐに建物が傾いてしまいそうですよね?コンクリートが固まっても紐で引っ張るのを辞めないと倒れてしまいそうでしょう?ですからコンクリートにあたる骨がしっかり固まり、ロープにあたる歯肉線維の緊張がとれるまでは歯を固定しておく必要があるのです。そのための装置がリテーナー(保定装置)ですので、担当医の指示に従ってしっかり使用して下さい。

リテーナーの使用期間

使用期間は骨が固まって、歯肉線維の緊張が取れるまでの期間ですが、個人差があります。

概ね2年程度を目安としますが、3年以上使用を指示されることもあります。

私の場合はまず半年から1年は24時間(食事と歯磨きの時は外します)、その後安定性を見ながら徐々に使用時間を減らしていき2年~3年で概ね安定したと思えるまで使用して頂きます。使用時間の判断は必ず担当医が行いますのでご自身で判断しないように注意して下さい。

究極的な対処法としては永久にリテーナーを使用するという選択もありだと思います。

また歯肉線維の緊張が非常に強いと判断した場合は歯肉線維を切断する方法もあり、効果も認められています。

舌癖・口呼吸などの悪習癖(MFTの必要性)

リテーナーの不使用に続いく後戻りの大きな原因として、舌癖や口呼吸などの悪習癖があります。

<プロフィットの現代歯科矯正学>という教科書があるのですが、そのなかで「歯は唇や頬などが外から押す力と舌が内側から押す力の平衡状態がとれる位置に並ぶ」という記述があります。悪習癖はこの筋力の平衡を壊すため注意が必要です。

矯正終了後に舌癖などがあると、前歯の間に小さな隙間ができたり、前歯が前に出てきたり(出っ歯の後戻り)します。対処法ですが、舌癖はMFT(口腔筋機能療法)という訓練で改善することができます。必ず専門のトレーニングを積んだ歯科衛生士か歯科医師に指導してもらう必要があります。

また、口呼吸はアレルギー性鼻炎やアデノイドが原因になりますので、耳鼻科への通院が必要です。口呼吸が改善しないと舌癖を改善することは難しいので、まずは口呼吸の改善後に舌癖の改善のためのトレーニング(MFT)を行います。

基本的に矯正治療開始と同時にMFTを開始しますが、矯正装置を外して保定装置に置き換えるまでに舌癖を改善しておくことが重要です。また、終了後もこのトレーニングを継続する必要があります。

治療が適切でなかった場合

骨格的な問題が原因の不正咬合を無理に矯正単独で治療したり、本来ならば抜歯矯正すべき症例に無理な非抜歯矯正を行うなどした場合は後戻りの原因になります。また、治療後にしっかり咬んでいなかったり、歯が倒れた状態のまま終了すると後戻りの原因になります。

限界を超えた骨格の捻じれを矯正治療単独で治療した場合

多くの人が大なり小なり骨格の歪みを抱えているものです。多少の歪みであれば骨格のゆがみを歯で補正することで問題なく治療可能です。しかしながら、極端な反対咬合や出っ歯を無理に歯で補正して治療するとどうしても限界を超えて歯を傾斜させたり歯槽骨(歯を支える骨)からはみ出して並べざるを得ないことがあります。このような治療は安定性が悪く、後戻りの原因になりますので、無理はせず、外科矯正(矯正治療と手術の併用療法)を検討すべきです。

無理な非抜歯矯正

非抜歯での矯正治療をする際に歯列を側方に拡大することがあります。小児の場合は口蓋正中縫合という骨の継ぎ目が閉じていないためかなり拡大することが可能なのですが、成人の場合この継ぎ目が固まっているため無理な拡大をすると後戻りの原因になります。成人矯正での側方拡大は歯が内側に倒れている場合以外はあまりお勧めできません。また、特に下顎歯列の拡大は後戻りの大きな原因になりますのでデコボコが大きい場合は無理な非抜歯矯正は避けるべきと考えます。

治療後の咬み合わせは適切か

上下歯列が1歯対2歯で綺麗に咬みあっていること、上の前歯と下の前歯が適切な角度で咬んでいることが長期安定性に重要なことがわかっています。

ですから通常我々が治療する時はこの咬み合わせを目指して治療します。しかし、極端に歯のサイズが上下左右で差があったり、欠損歯があるとこのような咬み合わせに出来ないことがあります。その場合の対処法としては、この咬み合わせを作るために歯を削ったり、差し歯で歯を大きくしたりする方法があります。また、代わりに咬み合わせを妥協して保定期間を長くする、永久的にリテーナーを使用するという対処方法もあり得ます。

矯正治療後に歯根が並行に並んでいない

歯並びの安定のためには歯が綺麗に直立していることが必要ですが、矯正歯科で歯を動かす時、力学上どうしても歯を歯体移動(倒れずに平行に移動すること)させることが困難です。傾斜移動といって倒れながら移動するのですが、倒れた歯を必ず直立させる必要があります。特に抜歯矯正の場合は抜歯してできた隙間に歯を移動していく時は傾斜移動→直立という動きを繰り返して隙間を閉じます。

最終的に隙間が閉じた時に歯が直立して歯根が平行に並んでいることが大切です。歯根が平行に直立していない場合は後戻りの原因になります。我々矯正歯科医がする対処法ですが、治療終了直前に一度レントゲンで歯根が平行に直立しているか確認することがあります。歯根が平行に直立していない場合は再度、調整してから治療終了にすることが一番いいのですが、歯槽骨や骨の構造上の問題で稀に歯根を平行に直立することが困難なことがあります。

歯根の並行性についてはどういうことかイメージが湧きにくいと思いますので実際の症例で説明します。

歯根の並行性が悪い

左側が咬み合わせの写真で右がレントゲン写真です。咬み合わせの写真でデコボコが大きく犬歯やその後ろの歯が前に倒れているのがわかります。レントゲンを見てみると歯の傾きがバラバラなのがわかると思います。デコボコが大きい状態で咬み合わせの安定性も何もないのですが、このように歯の傾きがバラバラの状態をそのままにしておくと徐々に歯が倒れてくる原因になり安定性が悪いのです。この症例はデコボコも大きいため上下小臼歯を4本抜歯して治療したのですが、治療後の状態を見てみましょう。

歯根が綺麗に直立している。

デコボコが治って綺麗に咬んでいますが、説明したいのはそこではありません。左の咬み合わせの写真で初めに前方に倒れていた犬歯が綺麗に直立して前後の歯と同じ角度で並んでいるのがわかると思います。さらに右のレントゲン写真を見ると犬歯だけでなくすべての歯がほぼ平行に並んでいるのがわかると思います。このように治療後に全ての歯が平行に綺麗に並んでいることが咬み合わせの長期安定性にとても重要なのです。

治療後の成長

人の顔は成長とともに変化しますが、特に顔の下半分が長くなっている事に気づいていますか?
成長が終了する前に矯正治療が終了した場合、その後の成長で後戻りの原因になります。これは後戻りというよりは環境への適合と言った方がいいかもしれません。綺麗に咬んだ状態で治療が終了した後に身長が伸びるとそれに伴い特に下顎が前下方に成長します。すると、歯が乗っている土台がズレるわけですから、主に下の前歯が内側に倒れながら補正して咬み合わせを維持しようとします。結果として下の前歯に僅かなデコボコが出来ることがあります。対策としては成長のピークを過ぎてから治療を終了することが考えられますが、多少の成長が残っていても通常問題ありません。ただし、もともと反対咬合である場合は身長が止まるのを待ってから治療を終了した方がいいでしょう。

親知らずは後戻りの原因なのか?

親知らずを抜かないと歯が前歯が押されて凸凹になるよって歯医者で言われたことありませんか?
後戻りでもっとも一般的でかつ対処困難なのが、下の前歯の凸凹なのですが、親知らずと下の前歯の凸凹の因果関係については昔から矯正歯科医の中で議論になっているテーマでした。このテーマに関して2016年の九州矯正歯科学会で北海道医療大学の溝口教授(現東北大学教授)が過去の様々な文献や新しい文献を元に非常にわかりやすい講演をして下さったのでご紹介します。

下顎前歯のデコボコの原因は親知らずではない

結論からいうと従来から信じられていた親知らず悪玉論は現時点では根拠がないということです。

従来、下の親知らずが前の歯を押すことで下の前歯に凸凹ができると信じられており、多くの矯正歯科医は下顎前歯の後戻りを防止する目的で親知らずを抜歯していたのですが、1998年の論文で親知らずの抜歯をしてもしなくても差がなかったと報告されています。
この研究はランダム化比較試験という非常に信頼性の高い研究方法で行われており十分な根拠になると思われます。

また、有限要素解析を用いた(ここは分からなくて結構です)研究で、
1 咬むたびに下顎歯列は前方への力が加わる
2 そのため徐々に下顎歯列は前方に移動する
3 その結果下顎前歯にデコボコが出来る
という報告があり、下の前歯の凸凹は親知らずが原因ではないことを支持していたとのこと。

つまり、下の前歯の凸凹は後戻りというより、経年変化なので仕方がないと捉えるべきかもしれません。

親知らずは抜歯しなくてもいいのか?

じゃあ、親知らずは痛い思いをして抜く必要はないかというとそうではありません。

親知らずは下の前歯の凸凹の原因ではないと言っているだけで悪さをしないと言っているわけではないのです。
親知らずは智歯周囲炎(時々急に下顎が腫れるて痛くなる原因)を引き起こしたり、前の歯の根っ子を吸収してしまったり、奥歯が内側に倒れる原因になったりするので、担当医から抜歯するように指示があったら従って下さい。

というわけで今回は矯正治療後の後戻りの原因と対処法について解説させていただきました。

参考文献

今回の記事では正確性を期すために少し専門用語が多くなったり、説明が難しかったかもしれません。
また、記事を書くにあたり以下の論文を引用しました。

Boese LR. Increased stability of orthodontically rotated teeth following gingivectomy in Macaca nemestrina. Am J Orthod 1969;56:273-290.
Edwards JG. A long-term prospective evaluation of the circumferential supracrestal fiberotomy in alleviating orthodontic relapse. Am J Orthod Dentofac Orthop 1998;93:380-387.
Blake M,Billy K. Retension and stability:a review of the literature. Am J Orthod Dentofac Orthop 1995;114(3):299-306.
Harradine NW,Pearson NH,Toth B. The effect of extraction of third molars on late lower incisor crowding:a randomized controlled trial. Br J Orthod. 1998 May;25(2):117-22.
Gomes de Oliveira S, Seraidarian PI, Landre J Jr, Oliveira DD, Cavalcanti BN. Tooth displacement due to occlusal contacts: a three-dimensional finite element study. J Oral Rehabil. 2006 Dec;33(12):874-80.

コメント

  1. […] 参照元:すずき矯正歯科の公式ブログ https://www.suzuki-or.com/blog/approach/#i-5 […]

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